かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 21話(1/3)

投稿日:

作:武田まな

 マミは姉に連れられ、都内を観光していた。

山行フリークの彼女にとって、大都会の景色を写真に撮るのは、新鮮であった。

「まるでロケーションハンティングにでも付き合っているみたいね」とエマ先輩は、シャッターを切り続けているマミの背中に向けて呟いた。

その声が聞こえたか、マミは振り向くと言った。

「あのさ、おねーちゃん。さっきの新宿の繁華街を見て思ったんだけど」オリンパスペンを姉に向け構えると「北アルプスの最深部と大都会の最深部、どっちも人が住める環境じゃないよね。それってイカした皮肉じゃない?」

カシャン、と渇いたシャッター音が鳴った。その瞬間、エマ先輩の肌が疼いた。

「……」

エマ先輩は何も言わずにオリンパスペンのレンズを見据えていた。

「ん? おねーちゃん。どおったの?」とマミは言い、オリンパスペンのレンズを覗き込んだ。「何も無いじゃん」

「わーマミ。今のえらくモダンなメタファーだこと」

「あ、バカにしてら。私が珍しくウイットに富んだこと言ったから」

「珍しく? それ自分で認めちゃうわけ」

「あーもう。調子狂っちゃう」

「あら、そ」何だろう、この落ち着かない気持ち。ロケーションハンティングだの、被写体だの、何か関係しているのだろうか? 私だって今朝起きてから調子が狂いっぱなしよ。「マミ、混雑してきたからはぐれないでよね」

「へーい」とマミは返事をして、シャッターを切りつつ姉の後に続いた。「おねーちゃん、待ってよ。歩くのが速いってば」

マミの声は大都会の喧噪に掻き消されてしまい、姉には届かなかった。それどころか、マミは人混みに流されてしまい、姉の姿を見失う始末であった。

まずい、このままだとはぐれてしまう。遭難に等しい事態だ。マミは大きく息を吸い込むと、目を閉じて鼻を摘まみ人ごみの中に体をねじ込ませた。日頃の行いを信じて、運を天にまかせたのだ。

その結果、めでたく人ごみを脱出することができた。また、姉の後姿も視界に捉えることができた。マミは走って姉に駆け寄ると、急に立ち止まった姉とぶつかった。

「あたた……。危うくオリンパスペン落とすところだったじゃない」

「後ろから勝手にぶつかっておいて、なにその言いぐさ」

「だって、さっき……」と声が小さくなる。

「そんなことより着いたわよ。ほれ、あれがお望みの回転レストランよ」とエマ先輩は、ビルの屋上に着地したとおぼしきUFOなる物体を指差して言った。

「こ、これが、彼の有名な回転レストランというやつか」とマミは声をあげた。それから、オリンパスペンを構えるとシャッターを切りはじめた。

「マミ、手が震えているわよ」

「わかってるってば」震える手とオリンパスペンをバンダナで固定して「ああ、これでもブレちゃう」

「ねえ、またおいて行くわよ」

 エマ先輩はエレベーターに乗り込むとそう言った。

「へっ、またって?」なんだそりゃ。てか、ドアが閉まりはじめているではないか。「待ってよ。閉めないでよ」

つづく


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