かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 20話(1/3)

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作:武田まな

 里実ワカバと友人のエミカは、カフェでのんびりと過ごしたのち、男どもとの合流ポイントに向け足を運んだ。

この数日間、一人で過ごしていた里実ワカバにとって、カフェでのお喋りはとても良い気分転換になった。今朝、目覚めた時に感じた、何かから遠ざかってしまったような気分も和らいだ。

しかし、その一方で、昨夜の寝不足が祟りはじめてもいた。というのも、人を避けながら歩くことが、たいそう面倒になってきたのだ。また、日差しで目が眩む。紫外線も厭わしく感じる(もうこれ以上、日焼けしてたまるか)。吸い込む空気だって熱い(まるで着ぐるみの中にいるみたいだ)。どれもこれも夏のせいである、と里実ワカバは嘆いた(夏は胸のときめく季節じゃなかったのか!)。

すっかりやりこめられてしまった里実ワカバは、街路樹がつくりだす木陰に入ると歩みを止めた。

「ねえ、エミカ。少し休ませて」ハンカチをうちわ代わりにして「この暑さの中、元陸上部のエースに付いて行くのは大変なのよ」

「あ、ごめん。つい暑いから少しでもはやく着いた方がいいと思って」

「誰かさんと違って、かよわいのよ、私」と里実ワカバは、冗談交じりに言った。

誰かさんはにんまり笑うと、里実ワカバの全身をまじまじ見つめて「いけ好かない奴め」

「おっと、奇遇ね。私もそう思っていたところよ」

「なんだそりゃ」

「ハハハハ」と二人は笑い合った。それから、木陰に覆われたガードレールに寄りかかった。

夏に文句をつけたにもかかわらず、夏は心地良い風を送り届けてくれた。暑さが和らぐ。ありがたいではないか、と里実ワカバ。

そんな中、ゆったりとしたデザインのロングワンピースが、里実ワカバの目に留まった(実に良いゆったり加減ではないか、うむ。ナチュラルなコットンの風合いも悪かない)。そのワンピースは、はす向かいのブティックに飾ってあった。

里実ワカバは腕時計の時間を確かめた。約束の時間まで余裕があった。覗いて見ようかな、と思い立ちエミカに提案しようとしたその時である。どこからともなくレモンの香りがした。ひるがえったかのように里実ワカバの心臓が高鳴りはじめる。そして、それが加速していく。苦しい……。

つづく


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