作:武田まな
〔現在〕
「あのさ、その履き崩したファッションだっけ」とエマ先輩は言い、森野カオルのスニーカーを指差した。「懲りずに続ける気?」
「もしも、このまま続けたら?」
「そうね。レモンと一緒に電子レンジに詰め込んで、爆発させちゃおうかな」
この人はいったい何とレモンを、電子レンジに詰め込もうとしているのだろう? と森野カオルは考えた。その結果、「穏やかじゃないですね」
「ええ、穏やかじゃないわよ」
「チョッと待っていてください」森野カオルはスニーカーのひもを結びはじめた。
その間、エマ先輩は大人しく待っていた。
「お待たせしました」
「まったく、森野ときたら」
そして二人は、軽自動車に乗り込んだ。
ピーカンに晴れた週末ということもあり、道は混雑していた。
「ところで今日のロケーションハンティングの行先は?」とエマ先輩は、新しくオープンしたとおぼしきフルーツパーラーを横目に尋ねた(近々、テイスティングしに行かねば)。
「幾つか候補があるんですけど、実はまだ決めかねているんです」
「あら、そ」と相槌を打って「どうせそんなところだと思っていたわ」
「ご明察」
信号が赤になり軽自動車は停車した。あの手の音楽と共に人々が往来しはじめる。
信号が青に変わると、エマ先輩は口を開いた。
「一つ提案」
「どんな提案ですか?」
「今日の目的地を決める方法よ」
その方法を察した森野カオルは、矢継ぎ早に言った。
「最も空に近い場所、と言うわけですね?」
「ねえ、どうしてこれから私が言おうとしたこと、先に言っちゃうわけ?」
「それ以外、言ってほしくなくて、つい」
「あのさ。念のため言わせてもらうけど。一年前と見た目は随分変わったかもしれないけど、内面はほんの少ししか変わってないつもりよ、私」
そう言われ森野カオルはホッとした。数日前のスーパーマーケットの夜には、どこかリアリティが欠けていたからだ。
「たかだが一つ歳を取っただけですもんね。そう易々人って変わりませんよね」
「気に障るニュアンスが意図的に含まれているような気がするんだけど。私の気のせいかしら?」
「気のせいですよ。エマ先輩」と森野カオルは、はずんだ声で締めくくった。
つづく
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