かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 19話(2/2)

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作:武田まな

 食事を終えた二人は、部屋の中でごろごろしていた。まるで南の島の路地裏にいる猫みたいに。

「おねーちゃん」

「ん?」

「あのさ」

「ん?」

「……退屈」

「あら、そ」

「うあー、うだるように暑ちぃ、熱ちぃ、厚ちぃ」とマミは言い放ち、手にしていたムックをベッドの上に放り投げた。

「マミ、言っていることがめちゃくちゃよ」

ジグソーパズルの青いピースを選別しながら、エマ先輩は溜息交じりにそう言った。

「だって、めちゃくちゃ退屈なんだもん」

「別に退屈は悪いことじゃないわよ」

「何でよ」

 今度は緑色のピースを選別しながら、エマ先輩はにんまり笑って言った。

「マミ。人は退屈だから誰かを好きになるんですぜぇ」

「それ、何かの受け売りでしょ? 小説とかで読んだことがあるセリフだもの」その小説って、さっきの題名も内容も忘れてしまった小説だったりして、とマミは思い前髪を一房ねじっていると、体にノイズのようなものが走った。「あのさ、どうしておねーちゃんの所に遊びに来たんだっけ? あたし」

「そんなの知らないわよ。あんたが勝手に遊びに来たんでしょ?」

マミは口を尖らした。それから、言った。「おねーちゃん。レモンってある?」

「冷蔵庫にあるわよ」

「一個ちょうだい」

「ご自由に」

そしてマミは、冷蔵庫からレモンを取出すと、皮を剥いて齧りついた。フレッシュでカラフルな刺激が口の中に広がると同時に、世界中の電灯が一瞬消えたような感覚に見舞われた。

「ワンピ……。そうだ、ワンピを買いに来たんだっけ、あたし。おねーちゃんが買ってくれるって、前に約束したから」

「げっ、あんたといつそんな約束したのさ」

「さあ……」とマミは、声を落として答えた。

「さあ、て。あんた」とエマ先輩は言い、マミの手からレモンをせしめた。それから、レモンに齧りつくと同時に、世界中の電灯が一瞬消えたような感覚に見舞われた。「ワンピね。ワンピか。この際、まいっか」

「ほんとに!」泣かせるお言葉ではないか。

「ほんとよ」とエマ先輩は言い、遠くを見つめて「どういうわけか、あんたにそうしたほうがいいような気がするのよね。不思議と」

「何だそれ。可笑しい」

「ほら、出かける準備するわよ」

「合点承知!」

つづく


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