作:武田まな
食事を終えた二人は、部屋の中でごろごろしていた。まるで南の島の路地裏にいる猫みたいに。
「おねーちゃん」
「ん?」
「あのさ」
「ん?」
「……退屈」
「あら、そ」
「うあー、うだるように暑ちぃ、熱ちぃ、厚ちぃ」とマミは言い放ち、手にしていたムックをベッドの上に放り投げた。
「マミ、言っていることがめちゃくちゃよ」
ジグソーパズルの青いピースを選別しながら、エマ先輩は溜息交じりにそう言った。
「だって、めちゃくちゃ退屈なんだもん」
「別に退屈は悪いことじゃないわよ」
「何でよ」
今度は緑色のピースを選別しながら、エマ先輩はにんまり笑って言った。
「マミ。人は退屈だから誰かを好きになるんですぜぇ」
「それ、何かの受け売りでしょ? 小説とかで読んだことがあるセリフだもの」その小説って、さっきの題名も内容も忘れてしまった小説だったりして、とマミは思い前髪を一房ねじっていると、体にノイズのようなものが走った。「あのさ、どうしておねーちゃんの所に遊びに来たんだっけ? あたし」
「そんなの知らないわよ。あんたが勝手に遊びに来たんでしょ?」
マミは口を尖らした。それから、言った。「おねーちゃん。レモンってある?」
「冷蔵庫にあるわよ」
「一個ちょうだい」
「ご自由に」
そしてマミは、冷蔵庫からレモンを取出すと、皮を剥いて齧りついた。フレッシュでカラフルな刺激が口の中に広がると同時に、世界中の電灯が一瞬消えたような感覚に見舞われた。
「ワンピ……。そうだ、ワンピを買いに来たんだっけ、あたし。おねーちゃんが買ってくれるって、前に約束したから」
「げっ、あんたといつそんな約束したのさ」
「さあ……」とマミは、声を落として答えた。
「さあ、て。あんた」とエマ先輩は言い、マミの手からレモンをせしめた。それから、レモンに齧りつくと同時に、世界中の電灯が一瞬消えたような感覚に見舞われた。「ワンピね。ワンピか。この際、まいっか」
「ほんとに!」泣かせるお言葉ではないか。
「ほんとよ」とエマ先輩は言い、遠くを見つめて「どういうわけか、あんたにそうしたほうがいいような気がするのよね。不思議と」
「何だそれ。可笑しい」
「ほら、出かける準備するわよ」
「合点承知!」
つづく
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