かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 17話(1/4)

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作:武田まな

 エマ先輩は指で唇を叩きながら、昨日の出来事を回想していた。

「あれ、エマ先輩。今夜は友人と食事するって、言っていませんでしたっけ?」

図書館を後にした折、カオルは私にそう言ったのだ。そして私は、システム手帳を広げて確かめたのだ。すると、そこには[優子と晩餐][夜マミから℡]としたためてあった。つまりその二つを考慮して、今日は解散と打ち合わせていた模様。あたしゃそのことを忘れていたのだ。

「どうしてくれる。私のドジ」

「そういえば、僕も友人から誘われていた例のフィールドワーク。うっかりキャンセルするのを忘れていました」

「前にも言ったけど、別にキャンセルしなくたっていいのに……」私はとんだ大嘘つきである。

「この夏、誰かさんと交わした先約がありますから」

「大人びたこと言っちゃって」

「たまにはいいじゃないですか」と言い、続けて「じゃあ、友人との食事会、楽しんできてください。明日、いつもの時間に図書館にいますから。あ、別に遅れて来ても構いませんよ」

「うん。わかったわ」明日、あの場所を発見した、と告げた時の彼の反応が至極楽しみである。期待を裏切るなよ、森野カオル! 「ん、遅れて来てもって、どういうこと?」

「言葉通りの意味ですよ。寝坊しても構いませんよってことです」

「寝坊なんかするもんか」

それから、私は友人の優子と合流して天ぷらなんぞ頂戴しながらお喋りに打ち興じたのだ(優子は開口一番、カオルのことを訊いてきやがった。やれやれ)。そして、帰宅すると妹からの電話があったのだ。

マミは来週の土曜、例のワンピの約束を執行させるため上京する、と一方的に宣言してきた。私はつべこべ言わず承諾した。そうしなければ、カオルの存在に気付かれるからだ。あ、別に気付かれてもいいのか。つい条件反射とやらが……。ともあれ、シャワーを浴びるとベッドに滑り込んだのだ。寝坊なんかするものか、と。

で、目覚めると午前十時だった(つまり十時十二分である)。あろうことか用心していたにも関わらず、寝坊なんぞ決め込んでしまったのだ。

私は身支度を整えると図書館におっとり刀で向かった。そして、到着するといつもの席にカオルはいなかった(おや、カオルも遅刻?)。なので、彼を待つことにしたのだ。地図を広げて、ペンシルをもてあそんだり、紙飛行機をこさえたり、肘が痛くなるまで頬杖をしたり、宙に向かってこの状況を問いかけてみたり、etc。

しかし、待てど暮らせどカオルは現れなかった。何かあったのだろうか? と考えるに、何かあったのだろう。その何かとは……。気になってジッとしていられない。

そして私は、電話をかけることにしたのだ。しかし、カオルは留守だった。不安は募る一方だ。

つづく


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