かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 16話(3/3)

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作:武田まな

 数分後、男どもはテントだのシェラフだの食料だのを引っ提げて、北の大地に旅立った。

二人を見送り終えた里実ワカバは、アパートメントの中に入った(鍵は成り行きで預かることになった)。さっきまでとは打って変わって静かな部屋だった。不思議と気持ちが落ち着いた。

里実ワカバは掃除機をかけてからゴミをまとめた。その直後、電話が鳴った。一瞬、里実ワカバの呼吸が止まった。それから、タガが外れたように脈拍が加速していった。落ち着け。なんてことはない。ただの電話だ。タイムスリップしてきた百年前の人じゃあるまいし、今更、驚く必要もないだろうに。そう自分自身に言い聞かせ電話機を見据えていた。

 ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリリリン、ジリリ……。

電話のベルが鳴り止んだ。ぷはー、と里実ワカバは息を吐き捨てた。それから、視線をスケッチブックに移した。きっと、あの人だ。そう断言できる。よし、これから確かめに行ってみよう。それに、あそこだったら集中して本が読める。

そして里実ワカバは、森野カオルのスケッチブックを手にすると図書館に向かった。

電車は図書館がある最寄り駅に到着した。里実ワカバは道をアウトインアウトで突き進み図書館へと向かった。

図書館に到着すると、あの人は昨日と同じ席にいた。そして、昨日と同じように、地図、レポート用紙、ペンシル、消しゴム、付箋、紙飛行機を机の上に広げていた。昨日と違う点は、あの人が一人だということだった。

 里実ワカバはあの人が見える位置に席を陣取り、『白いモラトリアムサマー』の頁をめくりはじめた。

つづく


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