かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 14話(2/3)

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作:武田まな

翌日、里実ワカバは朝顔模様のうちわ(軽井沢で手に入れたデザインも値段も上品なうちわ)で日焼けした肌に風を送りながら、森野カオルの腕時計に目をやっていた。

それにしても、今日は静かだ(ちと静か過ぎないか)。このまま夏が終わりでもしたらどうする? その前に彼と話がしたい。天気の話だとか、軽井沢の話だとか、何でもいいから。何でも……。声が聞きたい。欲望を満たしたい。ちっとも強かないんだ、私。

ふと我に返った里実ワカバは、首を左右に振った。いかん、いかん、気を取り直さなくては。軽井沢でエミカと積み重ねた会話を無駄にするつもり?(ウエットな会話に付き合ってくれたエミカには、言い表せないくらい感謝している)腹を決めろ! 里実ワカバ。

そして里実ワカバは、学生の本分をまっとうするため、髪をボヘミアン風のツインの三つ編みに結い、レトロガーリーナなワンピースを纏うと、図書館に向かった(決して涼みに行くわけではない。レポートのためである)。

近所の図書館には、レポートに使えそうな資料が無かった。したがって、もっと大きな図書館に行くことにした。

電車を乗り継ぎとある駅に到着すると、午後一時を回っていた。里実ワカバはランチのことを考えたが、ちっともお腹がすいていないことに気が付いた。さしもの私の食欲も、この暑さに戦意喪失とうわけか。とくれば、炎天下の中をよろよろと歩くしかなかった。日傘が欲しい。二の腕がおぞましく熱い。爽やかな軽井沢の日々が恋しい。こんがり日焼けまでして出向いたのに、参考になる資料が無かったらどうする? マーフィーの法則なんか御免だ。ともあれ、一先ず祈っておこう。神に? いや、この暑さの立役者、お天道様にか!

 どこか美術館を思わせるシックな図書館だった。里実ワカバは中に入ると資料を探しはじめた。

ほどなくして、参考になる資料が見つかった(おそれいったかマーフィーの法則め。感謝していますぜ。お天道様)。その勢いに便乗して、以前から読んでみようと思っていた本を探すことにした。

しかし、目的の本は見つからなかった。したがってリファレンス係に尋ねることにした。が、止すことにした。だって、時間は十分にあるもの。後でゆっくり探せばいいだけのこと。そう割り切ると、図書館の斜向かいにあるカフェに行き腰を落ち着かせた。そして、アイスティーとティラミスを口に運んだ。

やがて口に運ぶものがなくなると、里実ワカバはカフェを後にした。それから、映画館に立ち寄りドキュメンタリー映画を観賞した(偶然にもレポートに使えそうな内容が含まれていた。これから毎日、お天道様に祈ることにしよう)。

その後、文房具店で付箋を購入し、目抜き通りでウインドーショッピングをし、レコード店でサーフミュージックを試聴してから、再び図書館に舞い戻った。辺りはもうすっかり夕焼け色に染まっていた。里実ワカバは夕焼けが好きではなかった(屋上での出来ことを連想するのだ)。したがって目的の本を見つけたら、さっさとアパートに帰ろう、そう心に決めた。

だが、意に反して本は見つからなかった。あきらめてなるものか、と思った時だった。どこからともなくレモンの香りがした。と同時に、数メートル先の視覚情報が脳内で強制的に処理された。

里実ワカバの瞳には、森野カオルと杜葉エマが映っていた。マーフィーの法則、いや、それよりも、もっとたちが悪いときてら。ほんと夕焼けって大っ嫌い。さぞかし夕焼けもそのことに気付いているとみえる。

つづく


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