かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 11話(4/5)

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作:武田まな

 テーブルに並べられた紅茶は、ストレートティーだった。何故だろう? と森野カオル。

 そして二人は、紅茶に息を吹きかけると口に運んだ。

 夏の暑い夜に紅茶なんぞいただけば、汗ばむのは当然である。里実ワカバは扇風機の風を強めた。

「暑いね。冷たい飲み物と交換する?」

「いや、構わないよ」森野カオルは額の汗を拭うと言った。「里実。話したいことがあるんだけどいいかな?」

「……いいわよ」里実ワカバは返事をすると、ティーカップの中の琥珀色した液体に映る自分の顔を見た。やっぱり、切実な表情なんかしている。

「あのさ、実は」

「わかっているよ。わかっているの、私。何のことか」別に話の腰を折ろうとしたわけじゃなかった。ワンピースの決まりを破ったせいで大胆になっているだけのこと。その証拠にこんなことだって言える。「ねえ、その話をする前に、私のことをスケッチしてよ」

「スケッチ? 里実を?」

「うん、そうよ。せっかくワンピに着替えたんだし、あれだから」

「あれか」と森野カオル。それから、紅茶を口に運ぼうとした時だった。うっかり紅茶をこぼしてしまった。「あ!」

森野カオルは何よりもまず先に、腕時計を外すとシャツの裾で拭った。それから、秒針に目を凝らした。動いている。あらぬ事態にならずホッとした。

「カオル、大丈夫?」と里実ワカバは言い、タオルであちこち拭いてくれた。

「大丈夫だよ」

「ほんと?」

「ほんとだとも。間一髪で避けたから、思いのほか濡れなかったし」

「ならいいんだけど」さっき私が変なことを言ったからだ。責任感じちゃうな。「今、代わりの紅茶持ってくるね」

「待って、これからスケッチはじめるからその必要ないよ」

「えっ」ワンピースの決まりを破ったせいで、起こりえないことが起こっている、とでもいうのか。

 戸惑っている里実ワカバをよそに、森野カオルはバッグの中からスケッチブックを取り出した。そして、「とりあえず遠くを見る感じで」とだけ言い、ペンシルを動かしはじめた。

「そんなこと急に言われても……」と言いつつも、里実ワカバは遠くを見つめて「こ、こうかな?」

「うむ、上出来」

つづく


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