かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 9話(1/4)

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作:武田まな

「ねえ、見つかった?」とエマ先輩は、不安げに尋ねた。

「探しているスケッチじゃないと思うんだけど、一つ見つけたよ」とマミは、そっけなく答えた。

「それ、どんなスケッチ?」

「紙飛行機の折り方の解説図みたい」

「それじゃないわね」と答えて「ねえ、マミ。八月の頁を見て」

「ラジャー。えっと八月、八月、一九九三年の八月と……」紙の擦れる音がやむと同時に、マミはわめいた。「あった! ワンピ、じゃなくて、スケッチが。おねーちゃんの言った通り、八月の頁にあったよ」

「急に大声出さないでよ。びっくりしたじゃない」

「だって、つい嬉しくて」と声が小さくなる。

 エマ先輩は一呼吸置くと、穏やかに尋ねた。「ねえ、マミ。今しがた一九九三年って言ったよね?」それは、私が一六歳のときの西暦である。

「うん、言ったよ。日記の表紙にそう書いてあったから」とマミは、大人しく答えた。

「わかったわ」ともあれ、その西暦をメモした。「で、そこに描かれているスケッチって、どんな景色なの?」

「えっとね。海に向かって真っ直ぐな桟橋が突き出していて、海岸線には山ほど木々が描かれているスケッチだよ。てか、おねーちゃん。こんなに絵が上手だったっけ? まったくもって意外ですぜ」とマミは言い、けらけらと笑った。

 エマ先輩は天井を見上げた。雨音のせいで夜の静けさは微塵も感じられない。

「かくいう私も、今日知ったのよ。それ」

「ん、何を?」

「何でもない」

「ねえ、もっと他のスケッチ探す?」

「……」

「ねえ、おねーちゃん。聞いているの?」

「ありがと。もういいわ」とエマ先輩は静かに答えて、ベッドに横たわった。最後のレモンを齧ってしまっている以上、もうそうするしかなかった。

「本当にもういいの?」

「ええ、おやすみ」そう締めくくると、受話器を握ったままベッドから垂らした。

「約束、忘れないでよ。ワンピの約束。もし忘れたら、日記、全部読んじゃうんだから」

ベッドの下からマミの声が聞こえた。しかし、受話器のボタンを押すとあら不思議、その声は途絶えた。雨音もそうなればいいのにな、とエマ先輩は思った。

いずれにせよ、あの景色は私と何か関係があるのだろうか? きっとあるのだろう、と考えるに色々と知りたい。でも、どうすればいいのだろう? 

つづく


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