作:武田まな
「ねえ、見つかった?」とエマ先輩は、不安げに尋ねた。
「探しているスケッチじゃないと思うんだけど、一つ見つけたよ」とマミは、そっけなく答えた。
「それ、どんなスケッチ?」
「紙飛行機の折り方の解説図みたい」
「それじゃないわね」と答えて「ねえ、マミ。八月の頁を見て」
「ラジャー。えっと八月、八月、一九九三年の八月と……」紙の擦れる音がやむと同時に、マミはわめいた。「あった! ワンピ、じゃなくて、スケッチが。おねーちゃんの言った通り、八月の頁にあったよ」
「急に大声出さないでよ。びっくりしたじゃない」
「だって、つい嬉しくて」と声が小さくなる。
エマ先輩は一呼吸置くと、穏やかに尋ねた。「ねえ、マミ。今しがた一九九三年って言ったよね?」それは、私が一六歳のときの西暦である。
「うん、言ったよ。日記の表紙にそう書いてあったから」とマミは、大人しく答えた。
「わかったわ」ともあれ、その西暦をメモした。「で、そこに描かれているスケッチって、どんな景色なの?」
「えっとね。海に向かって真っ直ぐな桟橋が突き出していて、海岸線には山ほど木々が描かれているスケッチだよ。てか、おねーちゃん。こんなに絵が上手だったっけ? まったくもって意外ですぜ」とマミは言い、けらけらと笑った。
エマ先輩は天井を見上げた。雨音のせいで夜の静けさは微塵も感じられない。
「かくいう私も、今日知ったのよ。それ」
「ん、何を?」
「何でもない」
「ねえ、もっと他のスケッチ探す?」
「……」
「ねえ、おねーちゃん。聞いているの?」
「ありがと。もういいわ」とエマ先輩は静かに答えて、ベッドに横たわった。最後のレモンを齧ってしまっている以上、もうそうするしかなかった。
「本当にもういいの?」
「ええ、おやすみ」そう締めくくると、受話器を握ったままベッドから垂らした。
「約束、忘れないでよ。ワンピの約束。もし忘れたら、日記、全部読んじゃうんだから」
ベッドの下からマミの声が聞こえた。しかし、受話器のボタンを押すとあら不思議、その声は途絶えた。雨音もそうなればいいのにな、とエマ先輩は思った。
いずれにせよ、あの景色は私と何か関係があるのだろうか? きっとあるのだろう、と考えるに色々と知りたい。でも、どうすればいいのだろう?
つづく
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