「 年別アーカイブ:2020年 」 一覧

かさなる白いモラトリアムサマー 7話(3/4)

作:武田まな 午後の講義がはじまると、里実ワカバはルーズリーフに公式を書きなぐっていた。そうやって、あれこれ思索にふけないよう努めたのだ。 しかし、何かのはずみで思索してしまいそうになる時があった。そ …

かさなる白いモラトリアムサマー 7話(2/4)

作:武田まな ……無意識だった。気が付くと里実ワカバはスケッチブックに手を伸ばしていた。そうしていると意識しても、その手を引っ込めようとはしなかった。その方法がわからなかったのだ。わかったとしても、も …

かさなる白いモラトリアムサマー 7話(1/4)

作:武田まな  里実ワカバはランチタイムになると、学内のある場所に向かった。 ある場所には、ベンチに腰掛けてクロワッサンを口にくわえながら、本の頁を操っている森野カオルがいた。それは見慣れたシチュエー …

かさなる白いモラトリアムサマー 6話(2/2)

作:武田まな エマ先輩はあっさり首をすくめると、芝生をねじったり、つねったり、あれこれ楽しんだ。断言しよう。今、感じているこの気配。学生時代、屋上で感じていたあの気配だ。しかし、明日になれば仕事だの、 …

かさなる白いモラトリアムサマー 6話(1/2)

作:武田まな  二人は目的地の高原に到着した。 高原には手入れの行き届いたサッカーコート、ラグビーコート、陸上トラックが、三三五五していた。それだけ高地トレーニングとやらは重要があるとみえる、と二人は …

かさなる白いモラトリアムサマー 5話(2/2)

作:武田まな 森野カオルが二度目の電話をしたのは、今から三日前だった(一度目は留守だった。だから公開したばかりの映画の感想を伝言メッセージに残しておいた)。アルバイトの帰り道、エロティックな落書きが施 …

かさなる白いモラトリアムサマー 5話(1/2)

作:武田まな 〔現在〕 「あのさ、その履き崩したファッションだっけ」とエマ先輩は言い、森野カオルのスニーカーを指差した。「懲りずに続ける気?」 「もしも、このまま続けたら?」 「そうね。レモンと一緒に …

かさなる白いモラトリアムサマー 4話 (2/2)

作:武田まな  雨が上がりの晴れ間が覗きはじめている空の下、エマ先輩は大学の屋上にいた。そして、クロワッサンで口の中を一杯にして一篇の詩を思い出していた。 そんな時だった。眼下に広がる景色の中から、ス …

かさなる白いモラトリアムサマー 4話(1/2)

作:武田 まな 〔一年前〕 その日、予定していた講義を終えると、エマ先輩は『白いモラトリアムサマー』なる本を拝借するため、大学の図書室に足を運んだ。 目的の本を探していると、エマ先輩の足はスッと止まっ …

かさなる白いモラトリアムサマー 3話

作:武田 まな 森野カオルの軽自動車は、国道を西に進んだ。その間、カーステレオの代わりに、後部座席のビニール袋が音を奏でていた。可愛い猫たちがじゃれあっているみたいな音である。パンは途方もない状態にな …

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