「 月別アーカイブ:2020年05月 」 一覧

かさなる白いモラトリアムサマー 8話(3/4)

作:武田まな  受話器からコール音は聞こえなかった。その代わりにツーツーツーと冴えない音が聞こえてきた。仕方なく受話器を下したら、今度は雨音が聞こえてきた。 エマ先輩は再びプッシュボタンを押した。 し …

かさなる白いモラトリアムサマー 8話(2/4)

作:武田まな  電話のベルが鳴った。ルルルル、と一回、二回、三回。 「はい、もしもし森野です」 「カオル? 私」 「……何だ。里実か?」 「その言い方、ずいぶんご挨拶じゃない。カオルのアパートに電話す …

かさなる白いモラトリアムサマー 8話(1/4)

作:武田まな 〔一日前の夜の出来事〕  電話のベルが鳴った。ルルルル、と一回、二回、三回。 「はい、もしもし杜葉です」 「今、到着しました。アパートに。あ、えっと、森野です」 「色々と順番、逆さまのよ …

かさなる白いモラトリアムサマー 7話(4/4)

作:武田まな その後、里実ワカバは講義には戻らず図書室にいた。 図書室は森野カオルが夕方に立ち寄る場所である。つまり、ここで彼が来るのを待つことにしたのだ。窓際の席に腰掛けて、本の頁をめくって(文字通 …

かさなる白いモラトリアムサマー 7話(3/4)

作:武田まな 午後の講義がはじまると、里実ワカバはルーズリーフに公式を書きなぐっていた。そうやって、あれこれ思索にふけないよう努めたのだ。 しかし、何かのはずみで思索してしまいそうになる時があった。そ …

かさなる白いモラトリアムサマー 7話(2/4)

作:武田まな ……無意識だった。気が付くと里実ワカバはスケッチブックに手を伸ばしていた。そうしていると意識しても、その手を引っ込めようとはしなかった。その方法がわからなかったのだ。わかったとしても、も …

かさなる白いモラトリアムサマー 7話(1/4)

作:武田まな  里実ワカバはランチタイムになると、学内のある場所に向かった。 ある場所には、ベンチに腰掛けてクロワッサンを口にくわえながら、本の頁を操っている森野カオルがいた。それは見慣れたシチュエー …

かさなる白いモラトリアムサマー 6話(2/2)

作:武田まな エマ先輩はあっさり首をすくめると、芝生をねじったり、つねったり、あれこれ楽しんだ。断言しよう。今、感じているこの気配。学生時代、屋上で感じていたあの気配だ。しかし、明日になれば仕事だの、 …

かさなる白いモラトリアムサマー 6話(1/2)

作:武田まな  二人は目的地の高原に到着した。 高原には手入れの行き届いたサッカーコート、ラグビーコート、陸上トラックが、三三五五していた。それだけ高地トレーニングとやらは重要があるとみえる、と二人は …

かさなる白いモラトリアムサマー 5話(2/2)

作:武田まな 森野カオルが二度目の電話をしたのは、今から三日前だった(一度目は留守だった。だから公開したばかりの映画の感想を伝言メッセージに残しておいた)。アルバイトの帰り道、エロティックな落書きが施 …

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