「 月別アーカイブ:2020年05月 」 一覧

夕焼け 窓

かさなる白いモラトリアムサマー 10話(5/5)

作:武田まな 〔一年前の屋上の続き〕  グラスが触れ合ったような音が鳴った場所は、薄暗いペントハウスの踊り場だった。 その音はカフェオレ色のドアの隙間から、森野カオルの耳に伝わったものだった。それは物 …

かさなる白いモラトリアムサマー 10話(4/5)

作:武田まな しばしの間、二人はフェンスにもたれて遠くを見ていた。 そんな沈黙の末、エマ先輩はおもむろに口を開いた。 「あのさ、スニーカーの紐、解けているんだけど」 「まあ、いつものことです」 「あら …

かさなる白いモラトリアムサマー 10話(3/5)

作:武田まな 〔一年前〕  図書室に本を返却し終えた森野カオルは、おっとり刀でエマ先輩が待つ屋上へと向かった。しかし、その足は屋上へと続くカフェオレ色の扉の前で止まった。それは扉の隙間から聞こえてきた …

かさなる白いモラトリアムサマー 10話(2/5)

作:武田まな 〔現在〕 あれから一年が経つ。もう一年? まだ一年? どっちだろう、と里実ワカバ。そんなことより、この一年でカオルとの距離は、どのくらい縮まったのだろう? そもそも縮まったと言えるのだろ …

かさなる白いモラトリアムサマー 10話(1/5)

作:武田まな 〔一年前〕 風の強い日のこと。講義終了を告げるベルと共に、鳩たちは空へと一斉に飛び立った。そして、強風に煽られるとあらぬ方角にいざなわれていった。 間を置いて、学生たちが講堂の出入口から …

かさなる白いモラトリアムサマー 9話(4/4)

作:武田まな 「あのね、さっきのアナグラムのことだけど。実は正解なの」 「まあ、自信ありましたからね」と森野カオル言い、コーヒーを口に運んだ。少し酸味があってフルーティーなフレーバーだった。「エマ先輩 …

かさなる白いモラトリアムサマー 9話(3/4)

作:武田まな 机に突っ伏していると、雨音と冷蔵庫が唸る音に紛れてノックの音が聞こえた。それから、森野カオルとおぼしき声も聞こえた。きっと空耳だろう、とエマ先輩は結論付けた。が、念のため床に転がっている …

かさなる白いモラトリアムサマー 9話(2/4)

作:武田まな ざらついた気分の最中、電話のベルが鳴った。ルルルル、と一回、二回、三回……八回。  エマ先輩はベッドから垂らしていた手で床をまさぐり、受話器を握ると通話ボタンを押した。そして、「マミ。約 …

かさなる白いモラトリアムサマー 9話(1/4)

作:武田まな 「ねえ、見つかった?」とエマ先輩は、不安げに尋ねた。 「探しているスケッチじゃないと思うんだけど、一つ見つけたよ」とマミは、そっけなく答えた。 「それ、どんなスケッチ?」 「紙飛行機の折 …

かさなる白いモラトリアムサマー 8話(4/4)

作:武田まな  森野カオルは腹を決めると、里実ワカバの質問に答えることにした。その瞬間、腕時計に目が奪われた(不思議と名前を呼ばれたような気がしたのだ)。そして、どういうわけか公園の砂場に置き忘れたお …

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