かさなる 白いモラトリアムサマー

かさなる白いモラトリアムサマー 13話(1/3)

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作:武田まな

 とうに待ち合わせの時間を過ぎているではないか。不機嫌極まりない事態である。断っておくが世の中の並列化した時間のことならば、さしもの私とてある程度は寛容でいられる。というのも、今、私の言っている時間というのは、二人だけのあの時間のことなのだ(あの日から特別な意味を宿した時間でしょうに、カオルめ)だから、なんとも言えない気持ちになるのだ。まったくな話。

 エマ先輩の半径一メートルだけ、気温が二度上昇していた(どうやら特殊な能力をお持ちとみえる)。

 それから五分後、森野カオルは息を切らせてエマ先輩の目前に現れた。

「す、すみません。エ、エマ先輩」

「もう遅い。まったくカオルときたら」と投げつけて「じゃあ、聞いてあげるわ」

「ん?」

「遅刻した理由に決まっているでしょ」じゃないと気が済まない。

 腕時計が無くて時間がわからず、などとぬかしたら、おいそれと切って捨てられるに違いない、と森野カオルは光の速度の時間差で悟った。

「遠慮します」と森野カオルは、言葉通りそう言った。

「もう遠慮するような間柄じゃないでしょ? カオル」エマ先輩は石に刻まれた鉄の掟を破った村人に笑いかけるようにして、笑った。

「面目ないです」それから、森野カオルは手を合わせてこうも言った。「以後、気を付けます」

「あら、そ」

 手を合わせている森野カオルを見て、エマ先輩はちぐはぐな感じを覚えた。

その理由に気が付くと静かに言った。

「腕時計どうしたの? アパートに忘れてきたの?」

「まあ、だいたいそんなところです。ただ……アパートといっても、友人のアパートにですが」と声が小さくなる。

二人の時間は、世の中の並列化された時間よりも遅れて進んでいる。だとしたら、つまり腕時計の時間ではなく、並列化された時間で生活していたのであれば、私よりも幾分早く到着するはず(もしくは、ぴったりにだ)。その反対のコンセプトを彩る森野カオルときたら……。エマ先輩は溜息をつくと言った。

「もういいわ。図書館に行くわよ。それと近い内、腕時計を取りに行くように」

「わかりました」と森野カオルは、すまなそうに言った。

つづく


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